脱アルコール酒の歴史

いろいろな脱アルコール酒を飲んでいるうち,脱アルコール酒がどのようにして生まれ,どのように発展してきたものなのかを知りたいと思うようになりました.ですが,資料が少なく,調査はなかなか進んでいません.以下は,調べがついたものを書いてみたものです.断片的な記述ですが,どうかご容赦ください.調査が進みしだい,随時書き加えていこうと思います.

減圧蒸留法によるノンアルコールワインの開発

ノンアルコールワイン"Carl Jung"は,1908年に減圧蒸留法(「脱アルコール酒の作り方」のページをご参照ください)の特許を取得している,大変歴史のある銘柄です [1] [2].この技術は,蒸留の際に香り成分を回収することにより,アルコールを除きながら香りを失わないようにしたものです.Carl Jungの脱アルコールワイン開発については,アメリカでCarl Jungを販売しているDe-Alc社のCarl Jungのサイト[2]に掲載されている"The Carl Jung Legend"(Carl Jungの伝説)という文章[3]を,Carl Jung社より翻訳・転載の許可を得て,このサイトのCarl Jungのページに掲載していますのでごらんください.

米国の禁酒法とノンアルコールビール

文献[4]には,禁酒法下の米国で"near beer"とよばれるノンアルコールビールが生産されたことが記述されています.その内容を要約すると,以下のようになります.

米国では,1850年代から禁酒法を実施する州・地域が出てきていました.そして,1920年1月に禁酒法(ヴォルステッド法)が発効し,米国全土でアルコール分0.5%以上の飲み物が禁止されました.

near beerはこの時代に作られたもので,「本物のビールをつくり,それからアルコールを抜いたものが多く,ビール醸造の方法で醗酵を阻止したものもあったが,後者は出来あがりが一様でなかった」というものでした.生産量は1921年がピークで,その後は密造酒のために減少しました.

全国的な禁酒法は1934年に廃止となりました.しかし,米国ではビールが清涼飲料として飲まれる傾向が強くなっていったので,その後もnear beerが作りつづけられました.

大正末期の「ノンビア」

ノンアルコールビール「ホッピ−」を製造・販売しているホッピービバレッジのサイトに,ホッピ−開発の歴史について述べた「ホッピ−物語」という記事[5]があります.その中に,「大正末期のノンビア(ノンアルコールビール)の流行がきっかけとなり、先代、石渡秀によって研究開発が始められる」という記述があります.なお,この記事と同じページにある「ホッピ−の歴史」によると,ホッピ−は1948年から販売されています.

逆浸透法によるノンアルコールワインの開発

ノンアルコールワイン"Ariel"は,逆浸透法(「脱アルコール酒の作り方」のページをご参照ください)によって製造されているもので,1985年から販売されています[6].逆浸透法によるアルコール除去は,文献[7]でも紹介されており,この文献の参考文献として1985-6年の論文[8] [9]があがっています.

なお,[6]によると,米国では最初のノンアルコールワイン"St. Regis"は,1975年から減圧蒸留法を使って作られていましたが,1989年からは逆浸透法に切り替えられているそうです.また,同じく[6]によると,spinning cone column法(「脱アルコール酒の作り方」のページをご参照ください)は1992年に"Sutter Home "Fre""に用いられたのが最初だそうです.

1987年ごろの日本での状況

1987年10月に出版された「飲めない族」という本があります[10].この本に,この当時販売されていたノンアルコールビール16種類があげられており,1986年2月に発売された「バービカン」はとくに大きく取り上げられています.また,アメリカの「ビントナース・ライトワイン」社製のノンアルコールワインが「ヨワイン」の名で日本で売り出されたことも述べられています.



参考文献
[1] Carl Jung社ウェブサイト (http://www.carl-jung.de/)(独語)
[2] De-Alc社のCarl Jungのサイト (http://www.carljungwines.com/)(英語)
[3] "The Carl Jung Legend" (http://www.carljungwines.com/legend.htm)(英語)
[4] 春山行夫,ビール文化史(下),東京書房 (1972).
「あとがき」によると,この本は1967年4月から6年間,アサヒビールの社内報「アサヒ」に連載された記事をもとにしたものだそうです.私が見た本は,1500部の限定出版となっていました.
[5] ホッピービバレッジ社「ホッピ−ファミリー」 (http://www.hoppy-happy.com/familly/hp.html)
[6] N. H. Mermelstein, "Removing Alcohol from Wine," Food Technology, Vol. 54, No. 11, pp. 89-92 (2000)(英語)
アメリカの食品技術の学会Institute of Food Technologistsが発刊する専門雑誌"Food Technology"の記事です.このページにある目次の中の,"Products & Technologies"の項の"Processing"というリンクをクリックすると,PDF形式で読むことができます.
[7] Y. Margalit, Concepts in Wine Chemistry, Wine Appreciation Guild (1997) ISBN0-932664-91-1(英語)
[8] J. P. Choudhury, P. Ghosh, and B. K. Guha, "Spearation of Ethanol from Ethanol-Water Mixture by Reverse Osmosis," Biotechnology and Bioengineering, Vol. 27, pp. 1081-1084 (1985)(英語)
[9] K. Bui, R. Dick, G. Moulin, and P. Galzy, "A Reverse Osmosis for the Production of Low Ethanol Content Wine," Am. J. Enol. Vitic., Vol. 37, No. 4, 297-300 (1986)(英語)
[10] よしだけん(著),野末陳平(監修),「飲めない族」,日本テレビ (1987) ISBN4-8203-8748-0

なお,文献[4], [7]-[10]は,独立行政法人・酒類総合研究所(広島県東広島市,私が前に住んでいたところの近くです)の図書室で見つけたものです.